紀平さんと 代理戦争

 紀平選手の3Aが話題になればなるほどに、浅田氏がいかに優れていたのかということが取り沙汰され、熱狂的な浅田氏のファンは、「紀平さんが今回世界に衝撃を与えているのであれば、当時もっと優れていたに違いない浅田氏は間違いなくバンクーバーで金メダルを獲っているべきだった。なぜなら、彼女は3AをSP FSの3回揃えていたではないか?」と。これは、紀平さんに向けられたものというよりキム・ヨナ氏に向けられたバンクーバーでの採点結果に対する不公平感を表明しているのだが。事実、紀平さんは今シーズン3Aを3本揃えたことはない。特に、フリーで3Aを2本成功させたのはNHK杯と全日本のみでフランス杯では失敗の3Aに2A+3T GPファイナルではお手つき+3A+2T。フランス杯は、全体の点数が伸びなかったため3Aは一本も成功なしで優勝している。

 このことはさておき、浅田氏がかのバンクーバーで3Aを3本揃えたのに銀メダルに終わったことについてはどうなのか?キム・ヨナ氏との間でアンフェアなジャッジがあったのでは?とさえ言われる。

 断っておくが、私はフィギュアスケートに関しては一観戦者に過ぎず、客観的な評価を下せる審判の目は持っていない。

 確かに浅田氏はSP FPで3本の3Aを跳び、成功させた。が、スピンは正直遅く、FSでは3A以外のジャンプエラーが2回あった。ステップ、コレオは見事だったと思う。対するキム・ヨナ氏はSP FP通じ少なくともバンクーバーではミスはなかった。しかも、スピード感が全体にあり、その全体の流れは止まることがなかった。簡単なジャンプでミスしないとの指摘もあるが、3Lz-3Tなど大量得点に結びつく基礎点を有するジャンプもごく普通に跳んでいた。残念ながら浅田氏はLzジャンプは不得意であったためLzを含めた連続技を組み込んでいない。3A自体は基礎点が残念ながらあまり高くないので、3A+2T でもせいぜい10点 3A単独なら8.5 点。効率が高い技とは言えないだろう。というわけで3Aを3回成功させても、バンクーバーではキム・ヨナ氏には及ばなかったのは改めてビデオを見てもやむを得ないか?と言わざるを得ない。

 対するソチのFS。浅田氏の伝説のプログラムと言われるパフォーマンス。これはまさに見事なパフォーマンスだった、と思う。鬼気迫るものがあった。私も見応えのある女王の滑りだと今でも思う。

が、全てのジャンプを着氷し、、、、といわれたが、GOEを稼いでいたのは、スピン、ステップ、コレオなどで、連続ジャンプのUR Lzの出来栄えがGOE-に響いた。テレビ中継でアナウンサーが全てのジャンプを決めました、と絶叫していたが、実はジャンプは彼女の得点の足を引っ張っていた事実。

 さて、浅田氏とキムヨナ氏の代理戦争の犠牲にもなりつつある紀平さんだが、彼女の強みはあらゆる3回転ジャンプを正確に跳べること。ことに、3Aコンビネーションを失敗したら、もともとのプロトコルでは3Lz+ 2T(Tano)を3Lz+3T(これキム・ヨナの最大の武器)に変更してリカバリーできる力がある。また3Lzも通常版、Tanoともに出来る余裕がある。

スピン、ステップの表現もおそらくは音ハメが卓越しているので、3Fに入る前のステップでは必ず拍手が起こる。

 彼女の魅力は、盤石な基礎に裏打ちされた上にある3Aだ。SPで3A失敗して大差が着いていてもFSで巻き返してくれるのでは、と期待され、実際それを現実化する底力とドラマメーキング(本人は意図しないが)なのだと思う。